東洋建設の企業価値向上案から建設業界の未来について考えてみた
こんにちは。
東洋建設が今話題となっています。
前田建設と前田道路を傘下に持つインフロニア・ホールディングスが1株770円で東洋建設にTOBを仕掛け、その後任天堂創業家ファミリーオフィスであるYamauchi No.10 Family Officeが1株1,000円でTOBをしました。
ちなみにYamauchi No.10 Family Officeは、つい先日、有名な日本株アクティブストファンドであるタイヨウファンドを買収し、日本企業への投資を加速しているようです。
さて、そのYamauchi No.10 Family Officeですが、東洋建設へのTOBに関して、総ページ数136のかなり重厚な企業価値向上案を提示しました。
その内容から、東洋建設ひいては建設業界が抱える課題と企業価値向上についてのインサイトについて考えてみたいと思います。
東洋建設について
まずは、東洋建設について見てみましょう。
主力事業は、海上土木であり所謂マリコン(マリーンコンストラクター)です。
そのほかにも、物流工場施設の建築事業、フィリピンやケニアを中心に海外建設事業を行っています。
直近の業績と株式市場での評価(2022年3月期)
売上高:152,524百万円
経常利益:9,139百万円
純利益:5,863百万円
PER:12.4倍
PBR:1.05倍
ROE:8.9%
TOBのニュース後、株価は1.5倍になっていますので、実際には時価総額やその他バリュエーションが修正されています。時価総額は、560億円程度の規模だったことがわかります。
純利益率は、3.84%と余り高くないようですが、大成建設や大林組といった業界トップティアを見ても同程度の利益率水準だったので、建設業界全体的に利益率は余り高くないようです。
東洋建設自体は、平均的な利益水準ですし、バリュエーションも過度に過小評価されているわけでもなく、山内家が今回、なぜ東洋建設を選んだのか、未だに不思議ではありますが、ここから企業価値向上案を見てみます。
企業価値向上案について
136ページもありますが、多く分けると東洋建設の事業、課題、山内家の改善策の3つで構成されています。
全体感として、建設業界が旧態依然の労働環境によって若者にとって魅力の少ない業界になっており、テクノロジーイノベーションが起きていないということが指摘されています。
建設市場全体の問題
今後5年間は国土強靭化政策により公共事業は安定的に推移することが見込まれるものの、その後は、新規工事から更新へとシフトすることが予定され、建設市場の構成が多く変化することが予想されるようです。
また、昨今の資源高、サプライチェーンの課題が発生し、利益率が低下していることが指摘されています。
東洋建設の抱える問題
DXの取り組みが、大手ゼネコンに対して遅れている状況、またその人材も不足している
→DX投資が売上高比率で0.2%で、業界標準0.4%より低水準
技術者の増員が必要不可欠
その他の外部環境
就業者の高齢化(建設業全体の60%が60歳以上に対して、29歳以下は10%以下)
業界全体として女性登用が進みにくい環境
山内家によるバリューアップ施策
上記の業界及び東洋建設全体の課題に対しての解決策が提案されています。
ちょっとレポートの分量的に書ききれません。
主には、DX対策、人員育成、事業施策(マリオンプレイヤーとしての位置付け)等々について施策が書かれています。
https://prtimes.jp/a/?f=d71768-20220518-860ae5676ad61d2662585284ba668286.pdf
上記をご参照ください。
考察
以下、本件に関しての考察です。
まず、山内家が東洋建設を選んだ理由として考えられるもの
・今後、DXをはじめとする様々な改革が業界全体として進む可能性が高いこと
・マリコンという特殊な分野におけるリーディングカンパニーであり、通常の大手ゼネコンと直接伍して行く必要がないこと
・時価総額の規模感が山内家の資金力と勘案してお手頃だったこと
その他に、浮動株比率が高かったなどが考えられますが、既に前田道路が20%を保有していることから、なんとも言えません。
私なりの結論になりますが、こうした資金力のあるファンド等が狙う企業としては、
「コアビジネスが強い×バリュエーション(含む時価総額)がお手頃×手を加える(改革)素地がある」
といったところでしょうか。
村上ファンドのようなアクティビストファンドであれば、低バリュエーション×浮動株比率が高いなどが、投資の条件になりますが、本件においては少し趣向が違うかと思います。
そうした観点で、銘柄を選定されると、次なる東洋建設が見つかるかもしれませんね。
ご拝読ありがとうございます。